「生理前に涙が出てしまう」
「生理前だけなぜか涙が止まらなくなる」
「生理のときだけイライラして怒りのコントロールができない」
こんな症状で悩まれている方はいませんか?
これらはいずれも生理に伴うホルモンバランスの影響によるものであることが多く、生理に伴って精神的に不安定になる症状は「月経前気分不快障害(PMDD)」と呼び、生理のある女性のうち約5%が経験しているといわれています。
今回はこの月経前気分障害(PMDD)がなぜ起きるるのか、また症状が出たときどのような対処法があるのかについて医師が解説します。
月経前気分障害(PMDD)の原因は、生理前後の女性ホルモンの変化です。
女性ホルモンにはエストロゲンやプロゲステロンなどがあり、そのうち特にエストロゲンがPMDDに関連があるといわれています。
エストロゲンには身体の情緒を安定化させる作用があり「セロトニン」を多く分泌させることから幸福感が増します。
セロトニンには脳の興奮を抑え、心身をリラックスさせる効果があり、夜になるとセロトニンは体内時計を調整する「メラトニン」へと変化し身体を睡眠モードに切り替え、睡眠の質を上げる効果があります。
一方でこのセロトニンが不足すると、
- イライラや不安・恐怖などのストレスを感じやすくなる
- 意欲や集中力の低下
- 気分の落ち込み
など心が不安定になり、自律神経失調やめまいや頭痛など体調不良にもつながります。
生理周期の中で排卵の直前のタイミングでエストロゲンの分泌量は急激に減少します。
エストロゲンが減ることでセロトニンの分泌量も減ってしまい、この変化に身体が過敏に反応することで情緒が不安定になってしまい、生理前に突然涙が止まらなくなってしまったり、些細なことでイライラしてしまうことがあります。
低用量ピルには一定量の女性ホルモンが含まれており、低用量ピルの内服により女性ホルモンを補充することで、セロトニンの分泌が増え、情緒が安定する可能性が高くなります。
気分の落ち込み、不安感、イライラ感などの症状を和らげる薬物療法が検討されます。
その中でも特に「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」が効果が高いとされており、シナプスにおけるセロトニンの再吸収に作用することで気分の落ち込み、不安感、イライラ感などの症状が緩和されることが期待できます。
ただ内服期間はPMDDの症状が現れやすい期間のみ(生理約2週間前〜生理まで)内服するのが一般的な治療方法です。
PMDDの症状は中医学では「気」「血」の巡りが悪い、または「水」が体内に溜まっている状態といわれており、これらの症状を緩和するために下記の7種類の漢方が選ばれることがあります。
- 加味帰脾湯
- 抑肝散
- 加味逍遥散
- 当帰芍薬散
- 抑肝散加陳皮
- 桂枝茯苓丸
- 半夏桃核承気湯
漢方薬は効果が出るまでの時間が比較的が穏やかなため、すでに症状が強く即効性の作用を求める場合にはあまり適しておらず、効果には個人差も大きいため、医師や薬剤師に相談のうえで、症状や体質に合った漢方薬を選ぶことが大切です。
参考文献:
【PMSとPMDDの違い】
https://www.otsuka.co.jp/pms-lab/about/pms_pmdd.html
【月経前不快気分障害(PMDD) とは | 済生会】
https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/premenstrual_dysphoric_disorder
監修医師:尾崎 功治 先生
2014年北京大学医学部卒業後、中国医師免許取得。17年日本へ帰国後、日本医師免許を取得し、都内大学病院総合診療科・国際診療部に従事後、現マーチクリニック院長。