昨今、医療ダイエットやメディカルダイエットの分野で注目を集めているお薬の中に「マンジャロ」があります。
ただマンジャロ自体はダイエットのお薬ではなく、2型糖尿病の治療薬として開発された注射薬で2022年に米国食品医薬品局(FDA)によって2型糖尿病に対しての治療薬として承認されました。
一方で同じ製薬会社イーライリリー(Eli Lilly)から同成分「チルゼパチド」を含むお薬として「ゼップバウンド」が新登場し、患者様から「マンジャロとゼップバウンドは何が違うの?」と質問される機会が増えました。
そこで今回はマンジャロとゼップバウンドの違いについて詳しく解説します。
マンジャロは使っている人の多さやSNSの話題性から「マンジャロ」というキーワードを聞いたことがある人が多い一方、「ゼップバウンド」というお薬名はまだまだ聞き慣れない方が多いはずです。
ゼップバウンドは2023年にアメリカで肥満治療薬として承認され、瞬く間に注目を浴びました。
そして日本でもゼップバウンドが2025年3月19日に薬価収載され、肥満治療薬としては約30年振りの新薬として期待されています。
まず結論としてマンジャロとゼップバウンドの成分はいずれも「チルゼパチド」という成分で用量も成分も全く同じで、2.5mg・5mg・7.5mg・10mg・12.5mg・15mgの6種類が発売されています。
ただし、ゼップバウンドとマンジャロの唯一の違いは「適応症と目的」です。
マンジャロは「2型糖尿病」の治療が目的である一方、ゼップバウンドは「肥満症」に対して使える薬剤として承認されています。

「マンジャロとゼップバウンドが同じ成分とすると、肥満症の人がダイエットしたいときはゼップバウンド使えば良いと思うけど、なぜマンジャロがこんなに有名なの?」
上記のように思った方は鋭い方です。
「同じ成分のお薬が存在しているのはなぜ?」
「自費診療だと100%自己負担だからどっちを選んでも変わらないのでは?」
この疑問についてもう少し掘り下げてみましょう。
海外でのマンジャロの承認日は2022年に対してゼップバウンドは2023年であるため、マンジャロの方が発売日が早いことから認知度も高くなっていると考えられます。
マンジャロの有効成分であるチルゼパチドはGLP1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体とGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)受容体のそれぞれに作用することで、従来のGLP-1受容体作動薬と比較しても体重減少効果が高かったことから新しいダイエット治療薬として注目を浴びる結果となりました。
(ただこの点はマンジャロもゼップバウンドも成分は同じため差異はありません)
最大のポイントは価格差です。
マンジャロとゼップバウンドの薬価収載価格(税込)を比較してみます。
mg数にもよりますがゼップバウンドの方がマンジャロよりも薬価が高いため、ゼップバウンド購入時にマンジャロと比較して値段が高額になりやすいという点があります。
1本あたり(1キット)当たり | マンジャロ | ゼップバウンド |
2.5mg | 1,924円 | 3,067円 |
5.0mg | 3,848円 | 5,797円 |
7.5mg | 5,772円 | 7,721円 |
10mg | 7,696円 | 8,999円 |
12.5mg | 9,620円 | 10,180円 |
15mg | 11,544円 | 11,242円 |

「ん…?そしたらわざわざ値段の高いゼップバウンドを買う人はいないのでは…?」
さらにそう思った方は、とてもとても鋭い方です。
ただ大前提、前述のように「マンジャロは糖尿病の治療薬」であるため、マンジャロを肥満治療薬として使うことがそもそも「適応外使用」に当たります。
【適応外処方とは?】
国内で承認されている医薬品を、承認されている効能や用法・用量以外の目的で使用することを指します。
そのため原則として保険は適用されず自由診療扱いとなるほか、薬による重篤な副作用が発生した場合の救済制度「医薬品副作用被害救済制度」の対象外になります。
反対にゼップバウンドの場合は適応症には「肥満症」があるため、肥満症の基準を満たしていれば保険が使えるほか、医薬品副作用被害救済制度の対象にもなります。
ゼップバウンドは適応症となる「肥満症の基準等」を満たしていれば保険(一般的に3割負担)で処方が可能です。
一方で単なるダイエット目的では使えない他、肥満症の基準が厳しく、取り扱いされているクリニックの数がまだまだ少ないという課題もあります。
①高血圧症、脂質異常症、または2型糖尿病のいずれかを有する肥満症がある
+食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られない
+BMIが35 kg/m2以上
②肥満に関連する以下の健康障害が2つ以上ある
+BMIが27 kg/m2以上
- 耐糖能障害 (2型糖尿病、耐糖能異常)
- 脂質異常症(高脂血症)
- 高血圧症
- 高尿酸血症(痛風も含む)
- 冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)
- 脳梗塞または一過性脳虚血発作
- 非アルコール性脂肪性肝疾患
- 月経異常または女性不妊
- 閉塞性睡眠時無呼吸症候群または肥満低換気症候群
- 運動器疾患(変形性関節症:膝・股関節・手指関節、変形性脊椎症)
- 肥満関連腎臓病
肥満症治療に関連する学会(日本内分泌学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会)の専門医が常勤している教育研修施設であること

教育研修施設まである病院となるとほとんどが「大学病院」や「中~大規模の医療機関」に限られる可能性が高いことから、個人開業での小さなクリニックや町医者・美容クリニックでの保険適用としての取り扱うにはまだまだ高いハードルがあります。
治療が難しいとされる「肥満症」に対し、GIP・GLP-1受容体作動薬の「ゼップバウンド」が新しい治療の選択肢として加わることは肥満による健康障害や合併症の予防という観点でもとても喜ばしいことです。
特にゼップバウンドの高い体重減少効果は、臨床試験において明確に証明されており、多くの患者様にとって希望の選択肢に今後なっていくことが期待されます。
一方で消化器系の副作用や特定の疾患リスクも報告されているほか、自費といっても肥満症でない方の不必要な使用や正しくない使用方法もSNS等で散見されます。
単に薬に頼るだけでなく食事療法や運動療法も併用し健康的な体型を維持し、安全に効果を得るために医師の指導のもとで正しい使い方をすることが大切と言えます。
今後、肥満症治療薬の選択肢がより充実しクリニックでもこれらの薬剤をより多くの肥満患者様に処方できる日が訪れることを期待しています。