アフターピル(緊急避妊薬)は、避妊に失敗した場合や避妊を行わなかった場合に、望まない妊娠を防ぐために使用されるお薬です。主な成分として黄体ホルモンと呼ばれる女性ホルモンを含んでおり、一定の時間内に内服することで緊急的に妊娠を防ぐことが可能なお薬です。
避妊に失敗してしまったため「避妊効果のある低用量ピルを飲んでもだめか」という質問を頂くことがありますが、結論「失敗した後に内服しても効果はありません」。
低用量ピルは継続的に内服することで避妊効果を得られるお薬であり、反対にアフターピルは名前の通り失敗してしまったときに「緊急」で使う「避妊薬」になります。
アフターピルには主に2種類があります。
- レボノルゲストレル(LNG)を含むアフターピル:
- 主な商品名:ノルレボ、プラノバールなど
- 使用方法:性交後72時間以内に1回服用(早ければ早いほど効果的)
- 効果:排卵を遅らせることで妊娠を防ぐ
- 効力:妊娠防止率は約85%
- ウリプリスタル酢酸エステル(UPA)を含むアフターピル:
- 主な商品名:エラなど
- 使用方法:性交後120時間以内に1回服用(やはり早ければ早いほど効果的)
- 効果:排卵を抑制または遅らせることで妊娠を防ぐ
- 効力:妊娠防止率は約95%とされ、LNGよりも効果が高いとされています
妊娠率:
避妊を行わず性交渉をした際の妊娠する確率のこと。
年代別妊娠率や1周期あたりの妊娠率などがありおおよその数値は下記の通りです。
20代:1周期:25~30% 1年間:78~86%
30代:1周期:5~30% 1年間:52~36%
40代:1周期:1~5% 1年間:5~36%
(M.Sara Rosenthal.The Fertility Sourcebook.Third Editionより)
避妊率:
内服のタイミングとわず、全ての人が緊急避妊ピルを服用して妊娠を回避できる確率のこと。
妊娠阻止率:
排卵日が近いなどのいわゆる「危険日」付近での性行為など、そもそも妊娠する確率が高い人が緊急避妊ピルを服用して妊娠をしなかった確率のこと。
妊娠阻止率は「妊娠しやすい時期の方」がベースにあるため、避妊率と比べて妊娠阻止率の方が低くなる傾向があります。
アフターピルには国内承認薬の「レボノルゲストレル」や「ノルレボ」以外に、海外製の未承認薬「エラ」「マドンナ」など様々な種類があります。
ただ国内で臨床試験を行っているものもあれば海外の研究・臨床データしかないものもあり、結果さまざまな数値が混在してしまっています。
ここでは添付文書(お薬の内服説明書)や医学的論文から抜粋した正しい数値をご紹介します。
【レボノルゲストレル】
➀国内第Ⅲ相試験
0~72時間以内:妊娠率1.58% 妊娠阻止率81.0%
➁海外第Ⅲ相試験(レボノルゲストレル1.5mg)
0~72時間以内:妊娠率 1.34% 妊娠阻止率84%
③産婦人科ガイドライン(2018)
0~24時間以内の服用で:妊娠阻止率 95%
24~48時間:妊娠阻止率 85%
48~72時間:妊娠阻止率 58%
富士製薬工業株式会社「レボノルゲストレル錠1.5mg / 添付文書」
https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00067924.pdf
日本産婦人科学会:緊急避妊法の適正使用に関する指針2018
https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/kinkyuhinin_shishin_H28.pdf
【マドンナ】
①国内試験:国内未承認のためデータなし
②海外試験:レボノルゲストレル0.75mg×2錠=1.5mgで上記➁と同条件
【エラ】
①海外試験:
妊娠率:
48~72時間の服用:2.3%
72~96時間の服用:2.1%
96~120時間の服用で:1.3%
アフターピルの内服によって妊娠を阻止する効果が期待できる一方、そのメカニズムはっきりと解明されているわけではありません。ただ妊娠を阻止できていると考えられるメカニズムは主に下記の2つです。
排卵を抑制する
レボノルゲストレルを主成分とする「レボノル」や「レボノルゲストレル」を排卵前に内服することで排卵を抑制したという研究があります。
またエラに含まれる「ウリプリスタル酢酸エステル」にもレボノルゲストレルと同様の仕組みに加えて、排卵のきっかけとなるLH サージの始まる前後いずれでも排卵を抑制する効果が認められていることから、失敗してから72時間以内に内服が必要なレボノルゲストレルより+約48時間内服可能な期間が長いとされています。
子宮内膜の増殖を抑制し、受精卵の着床を阻害する効果
通常、女性は1つの生理周期の間で卵胞期から黄体期にかけて受精卵が着床しやすいように子宮内膜の増殖していきます。
そして子宮内膜が一定の厚みまで厚くなるとその内膜が剥がれる現象を一般的に生理と呼んでいます。
アフターピルを服用すると一時的に子宮内膜の増殖が抑えられ、受精しても着床には至らず妊娠が成立しにくくなると言われています。ただ既に着床し妊娠が成立したあとの効果はなく、アフターピルをなるべく早く服用することが大切、と言われれているのはそのためです。
アフターピルが今後の妊娠に影響することはありません。
また万が一、アフターピルで十分な効果得られず妊娠が成立してしまった場合でも、胎児への影響はありません。
いずれのアフターピルも名前の通り「緊急避妊薬」であり、緊急時に内服するお薬で内服によって吐気や嘔吐、頭痛などを伴う場合があり、一定の負担が心や身体にはかかります。
またコンドームを使わない性交渉では性感染症は防ぐことはできず、不妊症の原因となるクラミジアや淋菌などに感染する可能性もあることから正しい知識と正しい避妊方法を身に着けるようにすることが大切です。
監修医師:尾崎 功治 先生
2014年北京大学医学部卒業後、中国医師免許取得。17年日本へ帰国後、日本医師免許を取得し、都内大学病院総合診療科・国際診療部に従事後、現マーチクリニック院長。